【インタビュー】母として、医師として。自分の道を生きる

【インタビュー】母として、医師として。自分の道を生きる

※写真はイメージです。

2020年4月、ひとりの女性医師が誕生した。彼女は今年36歳になった。
ストレートで医師に進んだ同期と比べると、10年遅れのスタートだ。しかし彼女は今、輝きの時を迎えている。
医師の夢を追い続け、自ら自分の夢をつかみとったZ.Bさんにインタビューを行った。

もう一度、熱い青春を取り戻そうと決心。社会人から学生へ

高校生の時、大学受験で医学部を目指したBさん。しかし、結果は不合格。
浪人する余裕はなく、彼女は国立大学の経営学部に入学することになる。

「当時は『何が何でも医師になる!』という度胸も、学力も、決心も足りなかったんだと思います。」と振り返る。
医師になる夢をあきらめ、就職活動の後企業への就職を決めたBさん。5年間、一般企業で総合職勤務に就いた。
しかし、企業勤めに疑問が湧いたのだという。
「一般企業に勤めてみたものの『企業の利益を追求する』ということが自分の中でしっくりこなかったんですよね、なぜか。仕事上でも明確なキャリアビジョンが見えませんでした」
このまま、目標が見えない中で社会人を続けて意味があるのだろうか。Bさんは悩み続けた。そんな時、ふと自分の夢を思い出したのだと言う。

「悩みの真っただ中にいる時、小学校の卒業文集で自分が『医師になる』と描いたページを友人から送ってもらったんです。そこで気付きましたね。『やっぱりわたしの道はこれなんだ』と。もう一度熱くなる青春を送ろう、と思い立ち会社を退職。受験生をやり直すことにしました」

つらかった受験期。だけど自分の道は自分で切り拓くと決めた

医学部を志したのは、28歳の時。実は彼女は既婚者でもあった。この先のことを考えれば、勤めていた方が苦労が少ないことはわかっていた。
「これから受験生になるなんて、周りの人はずいぶん驚いていましたね。はなから苦労することはわかっていましたが、わたしは一度こうだ、と決めたら頑として譲らない性格なので(笑)。
それを主人や両親も良く理解して、医学部受験を応援してくれました。ただしチャンスは2回まで。経済的に、国立大学の合格がマストの条件でした。」
医学部には編入試験も設けられているが、彼女は敢えてセンター試験から受け直し、大学1年生からスタートする道を選んだ。
「文系学部卒業なので、理系学部卒業者が有利な編入試験は自信がありませんでした。」と話す。
とはいえ、医学部はただでさえ狭き門。そのうえ、現役時代から約10年が経過している。能力・体力に心配はなかったんだろうか。

「もちろん、不安はたくさんありましたよ。受からなかったら今後の人生は何を生業にすればいいのかな…と考えてしまう時は、社会人から医学部に編入した人の本や、ブログを読んでいましたね。『私以外にも頑張っている人がいるんだ』と心の支えにしていました。」
その後予備校通いを続けた。
そして2度目の医学部受験で見事、国立大学医学部に合格。医師としてのはじめの一歩を踏み出した。

充実した学生生活。家事と育児の両立


夫を残し、単身大学生活を送ることになったBさん。夫とは別居婚を続けながら自分は学生生活を送った。入学当時はとにかく現役世代のパワーに圧倒された。
「周りの子たちは当然ですが10代から20代。やっぱり若いな、パワーがあるなと思ってみていました。医学部に入ってくるだけあってみんな優秀だし、そのうえサークル活動やバイトなどバイタリティあふれる子たちが多いんです。大いに刺激になりましたね」と話す。

バイトもせず、サークル活動もせず、ひたすら勉強に明け暮れる毎日。人の何倍も努力した。学生生活での学びはまさしく財産そのものだったという。
「授業でいえば、基礎医学の実験、解剖は苦手でした。その一方、病院実習は本当に楽しかった。患者さんとお話する機会もありましたし、病院での勤務を具体的にイメージすることができました」
学年が上がるにつれ、次第に周りの子たちとも打ち解け、かけがえのない仲間になったことも印象深いという。

もうひとつ、彼女は大きな転機があった。大学3年生の時、子供を出産したのだ。「医学生なのに!?」と驚く方もいるかもしれないが、昨今医学生や研修医の際に子供を産む女性は増えているという。
ましてや社会人でもあり、家庭を持っている女性ならば年齢的にも子供を産むことは何ら不思議ではないと筆者は思う。

「子供を産んでからは両親に手伝ってもらいながら、学校・育児・家事の両立を目指しました。どれも中途半端でしたが、自分なりに精いっぱいやれたことは納得しています」

ゴールではなく、ここからがスタート。一生勉強し続けていく

2020年、6年間の学生生活の末国家試験に合格。この4月、夫の地元で研修医のスタートを切った。忙しい毎日を送っている。

「ずっと前だけを見て突き進んできました。気付けばあっという間に6年間が過ぎていた、という感じですね。医師となった今、改めて思うのはこれから先も勉強し続け、変化に対応することが大切だ、ということ。医師としての成長に終わりはないんだ、という自覚ですね」
小学校からずっと追いかけてきた医師という夢。その夢をつかんだ今だからこそ「さらに成長したい」という欲が出てきたのかもしれない。

最後に、今後の目標を聞いてみた。

「短期的な目標は、『当たり前のことを当たり前にこなせる、一人前の医師になる』こと。
長期的な目標は何かの研究をしたい。そしてその分野の第一人者になれたらいいな、と考えています」と現実的な答えが返ってきた。

もしかしたら体力や能力では、現役バリバリで働く20代半ばの医師にかなわないところがあるかもしれない。しかし、自身の夢をひたむきに追い続け、家族と共に頑張りぬいたBさんだからこそ、人の気持ちや状況にスッと寄り添うことができるのではないだろうか。

研修医を終え、専門医などの資格を取得し一人前の医師になるにはおよそ10年かかると言う。しかし、その10年間も、彼女はきっと持ち前のパワフルさで乗り切るに違いない。わたしはそう、確信を持っている。

Z.Bさん 自画像